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2019.03.02 Saturday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.114

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。


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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.114」


 

私が岩手町立石神の丘美術館の芸術監督に就任したのは2009年4月でしたので、来月でちょうど10年を迎えます。

この機会にざっと振り返ってみたいと思います。

 

石神の丘美術館は県北地域では唯一の美術館です。

また、全国的にも珍しい町立の美術館です。

地方の美術館は「美術のことだけをやっていればいい」というわけにはいきません。

人口が減り続けていく中で交流人口の創出、ひいては地域活性化の拠点としての役割も担っていることを充分に認識し、重視してきました。

 

地域の活性化の基本は、まず地元をよく知ることです。

地元学とも呼ばれるそれは地元を再発見することでもあります。

博物館的な企画展に力を入れてきたのは、その反映です。

『玉菜(キャベツ)にまつわる資料展』、『岩手町大百科展』、『北緯40度展』などは本来の美術館の守備範囲から大きくはみだした内容ですが、地元学の実践と地方からの文化発信という役目の一端を果たしたと自負しています。

 

また、就任当初に表明した「自然と芸術」というコンセプトを実現したものとして、『瀬川強写真展』は自然と芸術がみごとに融合した内容でした。

 

これまで彫刻や絵画といった「美術」だけでなく、写真やポスターなどにも目を向けてきたように、今後はさらに岩手発の商業デザインや工芸品といったジャンルも扱っていきたいと考えています。

 

このような活動を通して石神の丘美術館は、「地域にとって美術館とは? 美術館が果たす役割は何か?」という問いに対する答えを示してきたともいえます。

その結果、石神の丘美術館は美術関係者ばかりではなく、「まちづくり」に取り組んでいる多くの方々からも注目され、高い評価を得ています。

この小さな美術館が岩手町の総人口1万3500人を超える2万人もの入館者にお越しいただいていることは「美術館のある町・岩手町」の大いなる誇りといっていいでしょう。

 

ともあれ、美術館の運営に関して素人だった私が今日までこうして続けてこられたのは、町民ならびに岩手町役場のみなさん、石神の丘美術館を指定管理している岩手町ふるさと振興公社のみなさん、そして石神の丘美術館ファンのみなさんのおかげです。

特に美術館のスタッフにはこの場を借りて感謝したいと思います。

 

現在、野外展示場は来年初夏のリニューアルオープンに向けて工事中です。

大好きな散策路を歩けないのは私も残念ですが、さらに充実した美術館を目指していますので、どうぞご期待ください。

 

今後ともよろしくお願いします。


2019.02.07 Thursday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.113

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。


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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.113」


 

少し時間が経ってしまいましたが、昨年末の第24回盛岡文士劇について書きましょう。

 

私が出演した時代物の演目は、戊辰戦争後に戦犯として打ち首の処分を受けた楢山佐渡(盛岡藩家老)を主人公にした『柳は萌ゆる』でした。

平谷美樹さんの原作を、いつもの道又力さんが脚色したもので、公演後のアンケートなどでも大絶賛された傑作です。

 

平谷美樹さんは今まで「金ヶ崎から通うのは遠すぎるし、心臓が悪いので」と出演を断り続けてきたのですが、原作者が出ないわけにはいかないと説得されて初出演となりました。

存在感があり、堂々たる演技でした。

私が演じた目黒隆之輔(盛岡藩家臣)は架空の人物ですが、実在した家臣たちをモデルにしています。

当初、目黒は勤皇派に与することを主張します。

それに対して楢山佐渡は武士道を重んじ、徳川方につく道を選択します。

戊辰戦争が起こり、結果はご存じの通りです。

その結果、賊軍の汚名を着せられ、明治政府によって厳しい処分が課せられることになります。

目黒は楢山佐渡に対する処分に異議を申し立てて一歩も譲らず、武士として名誉ある死を勝ち取ります(私が言うのもなんですが、この場面はこのお芝居の白眉でした)。

 

楢山佐渡役の浅見智(IBC岩手放送アナウンサー)さんは初挑戦の時代物で主役という重責でしたが、誰よりも早く台詞を覚え、集中力の高い演技で出演者を牽引し、公演を成功に導きました。

楢山佐渡が報恩寺で切腹したとき、まだ幼かった原敬が別れを惜しんで泣き崩れたそうです。

原家も南部家の家臣でした。

そして、原敬にとって楢山佐渡は「人生の師」だったのです。

その史実をもとに、このお芝居でも原敬は重要な役割を果たしています。

原敬は、定評ある演技力の米澤かおり(岩手めんこいテレビアナウンサー)さんが幼年時代を、内館牧子さん原作の映画『終わった人』にも出演している菅原和彦(岩手日報)さんが壮年時代を演じました。

 

さらに、『おらおらでいぐも』で芥川賞を受賞した若竹千佐子さんも初出演し、話題になりました。

「来年も出たい」と文士劇熱に取りつかれたようです。

残念だったのは、本番一週間前に内館牧子さんが入院されて降板したことです(もう退院されて、お元気に活躍しています)。

 

私はだいたい三枚目の役が多いのですが、今回は違いました。

セリフの量もこれまでで一番多く、とても難しい役でした。

実は過去に私は2回だけ出演していません。

そのときの演目である『常磐津林中』と『世話情晦日改心(原案クリスマス・キャロル)』は文士劇史上の名作と誉れ高く、巷間「斎藤純が出ていないと名作になる」と言われています。

その評判を払拭するべく頑張りましたが・・・。


2019.01.11 Friday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.112

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.112」


 

あけましておめでとうございます。

 

今年はエルニーニョ現象の影響による暖冬という予報通り、例年に比べて雪は少ないものの、私が通っているスキー場はかろうじて12月中旬にオープンすることができました。

シーズン券を買ったのでさっそく日参したいと思っていましたが、スケジュール調整がうまくいかず、予定の半分も行ってません。

これから挽回するつもりです。

 

スキーはリフト(あるいはゴンドラ)で上がって、斜面を滑り下りるだけなのに健康にいいのです。

滑走する際、人間の身体の中で最も大きなハムストリング(太腿を構成する大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)をフルに使うため、まず心肺機能が向上します。

血糖値を下げ、善玉コレステロールが増加して血液の流れが良くなり、動脈硬化・心筋梗塞などの生活習慣病の予防になることが知られています。

同じハムストリングを使う自転車が健康増進に役立つのは同じ理屈です。

また、スキー場のある山の環境が精神的にいい効果を与えるようです。

 

ゲレンデに立つと私は何とも言えない懐かしさを覚えます。

岩山スキー場や竜ヶ森スキー場でひどく寒い思いをしながらスキーをした子どものころを思いだすのです。

雪とあまり縁のない名古屋生まれのスキー仲間は、雪への憧れがあるから、ゲレンデに立つたびに新鮮な気持ちになると言います。

 

スキー場は山の樹木を伐採して整地した、いわば自然破壊の産物です。

一方、雪と重力という自然を利用したスポーツでもあります。

いずれにしても、山と雪のそれぞれに感謝しつつ、北国ならではのウィンタースポーツをこれからも楽しんでいきたいと思っています。

 

ところで、昨年、岩手町立石神の丘美術館は第4回「恋人の聖地観光交流大賞」(NPO法人地域活性化支援センター主催)の観光交流賞審査員賞を受賞し、これまで私たちが積み重ねてきた取り組みが全国的に評価されました。

その「恋人の聖地」を含む野外展示場は、来年(初夏)のリニューアルオープンに向けて工事中のため閉鎖休館中です。

ご不便をおかけしますが、さらに魅力ある空間にしたいと思っていますので、よろしくどうぞお願いします。

なお、恒例のいわてまちイルミネーションは今年も実施しますので、ご期待ください(詳細は改めて告知いたします)。


2018.12.12 Wednesday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.111

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.111」


 

平成最後の1年が終わろうとしています。

みなさまにとって、この1年はどんな年だったでしょうか。

 

私はといえば、相変わらず慌ただしかったというのが正直な印象です。

ここ数年は時間に追われるような日々ではなくなったものの、それでも「よくもまあ次から次へと」と我ながら呆れるほどスケジュールが詰まった1年でした。

「公」のお役目を減らして、「私」を優先させたいのですが、なかなかそれも思うようにはいきません。

 

しかし、家族ともども大きな怪我も病気もなく過ごせましたから、いい1年 だったと言っていいでしょう。

 

実際、あらゆる点で大きなできごとのない1年でした。

大きな買物もしていませんし、大きな旅行もしませんでした(北海道ツーリングが計画倒れに終わったのは本当に残念です)。

そんな中で、私がバンドマスターをつとめているザ・ジャドウズ(エレキインストとGS、昭和歌謡をレパートリーにしているバンドです)が、全日本エレキ音楽祭(一関文化センター)と道の駅石神の丘開業祭に出演できたことは今年のハイライトです。

 

もうひとつ忘れてならないのは、私が七代目編集長(兼経営者)をつとめている『街もりおか』が創刊50周年を迎えたことです。

これは盛岡文士劇を始めたことでも知られる鈴木彦次郎(1898-1975)が『銀座百点』を手本に始めたもので、盛岡の人にとても愛されている月刊誌です。

大きな節目を無事に乗り切れたので、肩の荷を下ろした気持ちです。

 

来年の話をすると鬼が笑うそうですが、今、私は来年の計画をいろいろと練っているところです。

ザ・ジャドウズの久々のリサイサル(ワンマンコンサート)、北海道ツーリングなどを考えていると時間が経つのも忘れてしまいます。

そして、そういう計画を立てられることの幸せを噛みしめています。

 

ところで、私は長編小説『テニス、そして殺人者のタンゴ』で昭和631988)年にデビューしました。

平成になったのはその翌年でしたから、「平成」は私の作家歴とほぼ重なっています。

来し方を振り返り、少々、感傷的になっている師走の今日このごろです。

 

それでは、よいお年をお迎えください。


2018.11.09 Friday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.110

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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.110」


 

関東からやってきたオートバイ仲間と一緒に岩手県内をツーリングしてきました。

 

秋晴れのもと、しばしば紅葉に目を奪われてオートバイを停めると、遠来の仲間たちは口々に「岩手はオートバイの楽園だ」と盛んにカメラやスマホのシャッターを切ります。

晩秋の冷気に慣れていない一人は手がかじかんでしまい、スマホをうまく操作できなくなり、もうじきやってくる厳しい冬の前触れを察したのか、彼は「今は楽園だけど、これからが大変なんですね」と呟きました。

 

私も同じことを考えていました。

秋は風景もきれいですし、食べ物もおいしいです。

それは、長く厳しい冬を迎える前のプレゼントのようなものなのだと…。

 

やがて冬になり、雪や寒さに堪える日々が続きます。

もう雪かきはイヤだと誰もが心身ともに根を上げるころに春がやってきます。

 

岩手の春の美しさは格別です。

春の日だまりの暖かさもまた格別です。

明けない夜がないのと同様に、明けない冬もありません。

だから、私たちはどんなにつらい冬でも乗り越えることができるのです。

 

人生も同じではないでしょうか。

多少つらいことがあっても、その向こうに春のような日が来ると思えば我慢ができます。

たとえ税金が高かろうが、消費税が家計を苦しめようが、安心して子どもを生み育てることができるのであれば辛抱できるでしょう。

安心して老後を過ごせるとわかっていれば、喜んで税金も納めるでしょう。

 

ところが、今の世の中、ちっとも春の兆しが見えません。

一部の政治家と一部の官僚たちが「我が世の春」を年がら年中、謳歌しているだけです。

 

敗戦後から高度経済成長時代にかけて、私たちの先輩たちは、今とは比べ物にならないほどの苦労を重ねました。

そして、自らの力で春を築きました。

苦労のし甲斐のある人生だったと思います。

 

「冬を乗り越えれば明るい春が来る」

 

そういう世の中に、私たちはしなければなりません。

秋のツーリング中、オートバイのシートの上でそんなことを考えました。


2018.10.12 Friday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.109

美術館で毎月発行している小さな情報誌
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.109」


 

私はクラシック音楽の中でも古楽が好きです。

古楽はバロック以前(代表的な作曲家を挙げると、バッハ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、コレッリ、ダウランド、リュリ、クープラン、スカルラッティ、テレマンなど)の音楽を指します。

 

クラシックの主流である「モダン」に対する形で「古楽」があるわけですが、細かい説明よりも演奏を聴けばその違いがよくわかります。

ワルターやカラヤンが指揮したバッハと、ヘレヴェッヘやガーディナーら古楽の指揮者によるバッハを聴き比べると、前者はこってりと脂っこく、後者はあっさりしていると感じます。

室内楽を聴き比べても、やはり前者は重厚なニス塗りの家具を、後者は白木のシンプルな家具を連想させます。

 

古楽の特徴はムーブメントでもあることです。

なにしろ、楽譜の表記から演奏習慣、そして使用する楽器もその後のいわゆるクラシックとは異なります。

たとえば、古楽で活躍するリュート、チェンバロなどの楽器はバロックの次の古典派(モーツァルト、ベートーヴェン)の時代に駆逐されました(ちなみに、リュートはギターの先祖、チェンバロはピアノの先祖と思われがちですが、確かに代用されてはいるものの、実は先祖ではありません)。

 

古楽は、作品(楽譜)の発掘(古楽ムーブメントのおかげでこれまで忘れ去られていた名曲の数々が再評価されるようになりました)、演奏習慣の研究(これは専門的になるので割愛します)、当時の楽器の再現など実にたくさんの研究の成果の上に成り立っています。

たとえば、リュートやチェンバロ、そしてバロック以前に使われていたバロックヴァイオリンとヴァロックボウ(弓)などは現存していません(残っていたとしても実用には耐えられません)から、資料を元に再現しなければなりません。

その際、絵画が役に立ちます。

幸いなことに、正確な写実によって当時の楽器が描かれた作品がたくさん残っています。

それを参考にするのです。

 

そのような研究の重要な本拠地のひとつが、スイスのバーゼル・スコラ・カントルムです。

 

今秋から、盛岡出身のバロック・ヴァイオリニスト吉田爽子さんが、バーゼル・スコラ・カントルムに留学しました。

かねてから吉田さんの演奏会を石神の丘美術館で開催したいと思っていましたが、留学を終えて帰国するまで実現はお預けとなりました。

遠く離れた岩手町の空の下から、吉田さんのご健勝をお祈りしています。


2018.09.12 Wednesday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.108

美術館で毎月発行している小さな情報誌
「石神の丘美術館通信ishibi《いしび》」にて連載中の、
芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。


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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.108」


 

暑い暑い夏が終わりました。

今年の夏は本当に暑くて、暑さに弱い私は常に健康状態に不安を覚えて過ごしました。

私は冬よりも夏に風邪をひいたり、高熱を出したりすることが多いのです。

 

なにしろ7月から急に猛暑となり、8月中旬まで連日、30度を超える日が続きました。

夜になると気温が下がり、就寝時にはエアコンを入れずにすんだのがせめてもの救いでした。

気象情報が伝える最高気温は日影の風通しのいい場所での計測ですから、実際にはさらに2度以上高いところで私たちは活動をしていることになります。

熱中症で体調を崩された方、亡くなられた方が今年は記録的に多かったそうです。

 

オートバイで走っていても、気温が体温に近いと熱風を浴びるばかりで、少しも涼しさを感じません。

そのためオートバイに乗るのが躊躇われ、今夏はまったく走行距離が伸びませんでした。

ロードバイク(自転車)も同様です。

スマホに、ほぼ毎日のように「運動はひかえましょう」という熱中症予防情報がメールで届きましたから、それを守ったわけです。

「せっかくの休日だから」などと無理をすると、取り返しのつかないことになりかねません。

 

そんな暑い暑いさなか、ある除雪機メーカーに勤めている友人は、注文を取る営業で大忙しでした。

驚いたことに、除雪機は夏場の商戦で勝負が決まるのだそうです。

メーカーは夏の真っ最中に除雪機を売りまくるわけです。

 

実はスキー用具も夏場が販売の勝負どころなのです。

懇意にしているスポーツ店に行ったところ、たまたまスキー板とスキー靴の最新モデルが展示されていました。

夏に早期注文をすると、最新モデルを割安で入手できるというフェアを開催していたのです。

担当の方のレクチャーを受けているうちに、まんまと最新モデルを注文する羽目になっていました。

 

それはともかく、一夏の間、エアコンの効いた場所で過ごすように心がけましたが、遠出をできないためフラストレーションが溜まる一方です。

そんなとき、『藤原かんいち写真展 夢とバイクは海を越え、国境を超える』は、その素晴らしい写真で私を知らない国へと運んでくれます。


2018.08.14 Tuesday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.107

美術館で毎月発行している小さな情報誌
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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.107」


 

かつて私はホンダ・スーパーカブを乗り回していました。

10年ほど前に友人に譲り渡すまでの5年間だけの付き合いでしたが、楽しい思い出がたくさん残っています。

 

道でよく目にするスーパーカブは排気量が50ccの原付(自動車免許を持っていれば乗れます)ですが、私のは自動二輪免許が必要な90ccのモデルでした。

これは原付と違ってタンデム(二人乗り)ができるのです。

そこに目をつけた某テレビ局が、妻とのタンデムツーリングの番組を企画し、網張や玄武温泉など岩手山の山麓を一泊二日かけて旅をしました。

これもいい思い出のひとつです。

 

スーパーカブは1958年に登場して以来、累計生産台数が2017年秋に1億台に達し、世界最多量産ならびに販売台数を記録しています。

エンジンをはじめ、あらゆる部分が進化しているのですが、「見た目」は1958年の発売当時のモデルとほとんど変わりがありません。

これも我が国の工業製品の中では異例中の異例といえるでしょう。

ホンダはスーパーカブによって世界に知られる存在になり、これを「発明」した本田宗一郎の名を不動のものにしました。

 

スーパーカブの特長は、何よりも燃費のよさにあります。

50ccエンジンのスーパーカブはリッターあたり60キロは走るでしょう。

久性が高く、頑丈でなかなか壊れないため、一台に一生乗れます。

また、小さいながら走破力も馬鹿にできません。

 

私は旧沢内村から秋田県美郷町へ抜ける真昼林道(しばしば通行止めになることでも知られています)をスーパーカブで走ったことがあります。

途中、本格的なオフロードバイクに乗ったライダーらに会いましたが、私のスーパーカブが淡々と走っているのを見て唖然となった顔を忘れられません。

これも楽しかった思い出です。

 

スーパーカブの特長を活かして、日本一周はもちろん、世界一周にチャレンジしている強者も少なくありません。

スーパーカブで「地球縦断の旅」を実現させた藤原かんいちさんは、そんなチャレンジャーらの「鑑」であり、「お手本」というべきライダーです。

 

今月11日から始まる『旅行家・藤原かんいち写真展 夢とバイクは海を越え、国境を超える』では、藤原さんのこれまでの旅の足跡を存分に味わっていただけるでしょう。

私はこの企画展を通じて、藤原さんを旅に駆り立てる原動力に触れてみたいと思っています。


2018.07.14 Saturday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.106

美術館で毎月発行している小さな情報誌
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芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。


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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.106」


 

先月、今年は花のつきがいいと書きました。

その後、ヤマボウシがみごとに花をつけました(あれは花ではなく、ガクだそうですが)。

クリの木もたくさんの花をつけ、初夏の香りを放っています。

今年は「花の当たり年」と言っていいようです。

石神の丘美術館のラベンダーも例外ではなく、濃い紫色の花が咲き誇り、爽やかな香りを放っています。

 

石神の丘美術館は、昨年につづいて今年も「ふれあいグリーンキャンペーン」の対象に選ばれ、過日、岩手トヨペット(盛岡市)からラベンダーの苗木200本を寄贈していただきました。

岩手トヨペットの元持雅行社長、佐々木光司町長、「緑の大使」を務める2018ミス・インターナショナル日本代表の杉本雛乃さんらが出席して盛大な寄贈式が行われ、ラベンダーの苗木と社員の寄付金10万円をちょうだいしました。

ラベンダーは南側斜面の階段沿いに植え、徒歩による来館者をお迎えします。

寄付金は今後の美術館整備に有効活用させていただくことになっています。

ここに記し、改めて感謝申し上げます。

岩手中央幼稚園の子どもたちとラベンダー植樹を行う予定でしたが、強い風雨のため中止となったのは残念でした。

 

石神の丘美術館はこのように官民(岩手町、企業、住民)が協力しあって、今日まで歩んできました。

これらの活動が「恋人の聖地」を主宰するNPO法人「地域活性化支援センター」から高く評価され、今年は「恋人の聖地観光交流審査員賞」を受賞しています。

 

石神の丘美術館屋外展示場は今秋から閉鎖し、ラベンダー園や恋人の聖地、散策路を整備する工事に入ります。

この整備事業にあたっても、専門家による検討委員会を2011年に設置。

2013年にまとめられた提言書とその後に開催された町民との懇話会などをもとに進められています。

このような手法も先進的な取り組みと言っていいでしょう。


2018.06.06 Wednesday

芸術監督のショートエッセイ 石神の丘から vol.105

美術館で毎月発行している小さな情報誌
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芸術監督・斎藤純のショートエッセイをご紹介します。


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石神の丘美術館芸術監督・斎藤純のショートエッセイ
「石神の丘から vol.105」


 

黄金連休中に、関東関西方面から2組の友人グループが岩手にやってきました。

1組はオートバイの仲間です。

「小岩井の一本桜」と八幡平アスピーテラインの雪の壁が目当てだったのですが、小岩井は大渋滞中と聞いていたので、上坊牧野の一本桜に案内しました。

一本桜はまだ蕾でしたが、まわりの広大な牧野の景色と相まって、とても喜ばれました。

さらに、八幡平アスピーテラインのダイナミックな景観と雪の壁もさることながら、松川の水芭蕉群に強く感銘を受けたようです。

岩手は初めてという方もいて、「いいところに住んでますね」と羨ましがられました。

 

もう1組は、サイクリングの仲間です。

初心者も含まれていたので、平坦なルートを選ぶことにし、北上の展勝地に向かいました。

「さくらまつり」を開催中の展勝地では、みごとな桜並木に加えて、花魁道中や鬼剣舞も見ることができました。

往復の道も「絶景ですね」と、終始、感激しどおしだったようです(私たち地元のものにとっては実にありふれた景色なのですが)。

 

2組が共通して口にしたのは、山が美しいということでした。

他に先駆けて新緑を迎えるブナと残雪のコントラスト、まだ冬枯れの様相を残す林の中でひときわ目立つコブシの白い花。

特に今年はコブシの花のつきがよかったように思います。

 

黄金連休が終わってしばらくすると、ヤマフジが紫色の花をびっしりとつけました。

盛岡の街なかでは白い躑躅がいつもよりたくさん花をつけました。

満開のリンゴの花を見て、今年は白い花の当たり年なのではないかと思いました。

もしそうなら、私の好きなハリエンジュ(ニセアカシア)も、あのいい香りを放つ花をいっぱい咲かせるに違いないでしょう。

 

実は私は40歳近くなるまで、花にも木にも野鳥にもあまり興味がありませんでした。

自然がつくったそれらの美よりも、人がつくった美(絵画や音楽)への興味が強かったのです。

今もなおその傾向はありますが、春から初夏にかけての野山を目にすると、自然にはかなわないと溜め息をつくようになりました。

私にとってこれは大きな変化です。

年齢の積み重ねによる変化だと思います。


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